おうちでおたる | 2020.10.31

小樽百景~アイアンホース号の燃料 

小樽市総合博物館Facebookより

アイアンホース号の燃料

「燃料は何ですか?」 

アイアンホース号を見に来られるお客さんから、質問を受けることはよくあります。機関車のメカについて、あるいは歴史に関することなど内容はさまざまですが、おそらくいちばん多いと思われる質問がこれ、『燃料は何ですか?』

焚き口の覗き窓から炎を見ながら燃料を調節しているところ
①焚き口の覗き窓から炎を見ながら燃料を調節しているところ

運転室を外から覗いても石炭を投入している様子は見えないし、煙の匂いも石炭とは違います。こうしたことから多くの人が燃料についての疑問をもつようです。

この質問への答えは『重油です』

石炭から重油へ  

アイアンホース号は蒸気機関を動力としながらも、ボイラーの燃料には重油を用います。ボイラーの底部を覗き込むと重油を焚くためのバーナーは後付けされた形跡があり、当初は石炭を焚く機関車だったのが、後年に重油を使うように改造されたことがわかります。ただしその改造がいつ、どこで、なぜ行われたかを示す記録は見当たりません。

アイアンホース号は1909(明治41)年にアメリカ・ペンシルバニア州のポーター社で製造されて、まずは中米グアテマラの農場で約50年働き、そののちアメリカ本土に戻っていくつかのテーマパークなどを渡り歩いてきた来歴をもちます。111年にもおよぶ歴史のどこかで、改造が施されたようです。

一般に蒸気機関車というと石炭を焚くものが主流ですが、世界各地の鉄道に例外は少なくありません。地域事情による入手しやすさや運用上の都合により薪、あるいは重油などの化石燃料を用いるケースです。日本の森林鉄道でも身近に潤沢にある木を燃料にした例があるし、比較的新しいところでは、東京ディズニーランドの園内を走る『ウェスタンリバー鉄道』の機関車が、灯油(開業初期には重油)を燃料としています。

重油併燃と重油専燃 

重油を燃料とする蒸気機関車のなかにも、石炭と重油を併用する“併燃”と、重油だけを使う“専燃”とがあります。日本における重油併燃の嚆矢となったのは信越本線横川~軽井沢間の碓氷峠越え。国内最大の急勾配に加え、多数のトンネルが連続する過酷な環境で、石炭の煙にまかれた乗務員が窒息する事故も起きています。そこで対策として3900型機関車での重油併燃が、明治30年代中頃という早い時期に導入されました。

重油併燃は戦後になると広く採用され、勾配区間を擁する路線を中心に、全国各地で重油タンクを装備した機関車が見られるようになります。

一方の重油専燃の機関車が国内で普及することはありませんでしたが、国鉄にわずか1両だけ存在しました。一時は特急列車牽引にも活躍し“名機”の誉れ高い大型機関車C59型の、127号機です。改造は1954(昭和29)年、神戸市の国鉄鷹取工場で行われました。主に大阪地区の東海道本線で使われ、性能面ではまずまずの結果を得ました。しかし結果として本格的な運用に至らなかったのは、乗務員の養成の問題が大きかったようです。

重油焚きボイラーの扱いは石炭焚きとの違いが大きく、特別な技能が必要となります。たった1両の機関車のために専従の乗務員を養成し配置するのは非効率で、その点がネックとなって127号機の運用に支障をきたすこととなりました。同機はのちに盛岡地区に異動となりますが、そこでも目立った働きをすることはありませんでした。結局、127号機が運用されたのは重油専燃改造からわずか3年程度に過ぎず、その後は休車となって1960年には廃車・解体という不遇な運命を辿りました。

火室の下のバーナー部分。画面下は第2動輪の車軸
②火室の下のバーナー部分。画面下は第2動輪の車軸

以前、アイアンホース号を見に来たお客さんに燃料が重油であることを話したところ「それならラクでいいですね」と言われたことがあるのですが、それはどうだか…。

確かに重油は石炭と違って点火直後から火勢が上がります。しかしそれだけに燃料の量や、燃料を噴射する蒸気(初期段階では圧縮空気)の調整は非常にデリケートで、ミリ単位でバルブやコックを動かすくらいの慎重さが求められます。調節を誤ると火室の下に炎が落ちることもあるので気が抜けません。こうしたことから、アイアンホース号よりはるかに大型のC59型では、ボイラーの取り扱いも相当に難しかったであろうことは容易に想像できるのです。

小樽市総合博物館

1956年創立。小樽の歴史と自然を紹介する運河館、鉄道と科学を紹介する本館があります。様々な企画展や講座、蒸気機関車の動態保存などの体験もできます。   【小樽市総合博物館】 ▶本館 047-0041 北海道小樽市手宮1-3-6 電話 0134-33-2523 ▶運河館 047-0031 北海道小樽市色内2-1-20 電話 0134-22-1258  ■HP→https://www.city.otaru.lg.jp/simin/sisetu/museum/ ■FB→https://www.facebook.com/otaru.museum/ ■mail→museum@city.otaru.lg.jp

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