越崎文庫
小樽市総合博物館所蔵資料の中で、とくに地域史研究で重要なものが「越崎文庫」とよばれる文献群です。
越崎宗一(1901-1977)氏は小樽で老舗の食品卸業「越崎商店」を経営の傍ら、地域史の研究で大きな成果を残された方です。特に北前船、アイヌ風俗画の研究では全国的に先駆的な研究をされた方です。

その越崎氏が、アイヌ語地名研究者の山田秀三氏と取り組んだ研究が「オタルナイ」の変遷です。当館の越崎文庫の中にはその研究の草稿やメモが含まれています。
「ヲタルナイ」の痕跡
現在の新川河口の東側(石狩新港側)にある沼は、かつて「ヲタルナイ」の地名のもととなった、旧オタルナイ川の痕跡ではないか、といわれています。越崎氏は、現地調査はもちろん、様々な古地図からその地形変遷をさぐっています。その一部を紹介します。

流路変化の模式図

旧オタルナイ川河口付近は石狩砂丘の西端部分にあたり、砂丘列が海岸線に平行に何列か存在し、海にそそぐ川はその砂丘と砂丘の間を縫うように、蛇行しながら走っています。しかし、時折、出水などによりそれが直線的にショートカットされ、旧の流路の一部が取り残されることがあります。
越崎氏はその流路の変化を考察され、文献に現れる「ヲタルナイ」の位置を考察されています。越崎文庫以外の資料、たとえば国土地理院の写真からもその変化が大きいことがうかがえ、現在残されている沼は昭和の時代に残された流路ということがわかります。
博物館や教育委員会でも、何度か現地周辺を踏査し、江戸時代の「ヲタルナイ」の痕跡を調査していますが、未だに確認できません。おそらく、一連の激しい流路変化で、場所の所在地ごと流失してしまったのではないかと考えています。
越崎氏は「運河を守る会」の初代会長であり、小樽市指定無形民俗文化財「忍路ニシン場の行事」の指定、保存に奔走された方でもあります。本館の小部屋に収蔵保管している越崎文庫は、私ども学芸員にとっては「宝物庫」です。