アツモリソウ
アツモリソウは北国の草原に生育するランの一種で、花の一部が大きな袋状をしていることから、平敦盛(たいらのあつもり;平家物語、それを元にした能の演目等で有名な武将)の背負った母衣(ほろ)に見立てられ、その名が付けられました。
かつては各地で見られた植物ですが、栽培目的で過剰に採取されたため激減し、自生地は最早数えるほどしか残されていません。またシカによる食害や植生の変化による生育適地の減少なども絶滅へと拍車をかけています。現在アツモリソウは、法律(種の保存法)の下で厳重に保護され、また各地で増殖の取り組みも行われています。
当館には1980年代に市内の2ヶ所で採集されたアツモリソウの標本が収蔵されています。これらの標本は、この時代まで小樽市内にアツモリソウが自生していた証拠となるものです。明かすことはできませんが、どちらの採集地も私達には馴染みの深い、ごく身近な場所です。しかしその後、アツモリソウの市内での確認例は無く、残念ながら小樽からは絶滅してしまった可能性が高いと考えられます。
アツモリソウは草の茂みに隠れるように咲くことが多く、派手な見た目の割に、注意深く探さないと見落としてしまうような花です。もしかしたら小樽のどこかにひっそり生き残っているのではないかと(生き残っていてほしいと)、時々思います。博物館の標本には、地域の自然の変化を記録するという目的がありますが、アツモリソウの標本のように「かつてあった」ことを示すものがこれ以上増えないよう、祈るばかりです。