アツモリソウ
明治後期に活躍したアマチュア写真家奥山富作氏が残した作品群(奥山コレクション)の中に、山野草の展示会で撮影されたとみられる鉢植えのアツモリソウ(敦盛草)の写真があります。

この写真は「北海道後志国岩倉山腹自生」と、その産地が記されている興味深いものです。アツモリソウの生育地としては現在ほとんど知られていない地名だと思われます。
岩倉山
岩倉山(がんくらやま)は国土地理院の地形図にも記載の無い地名ですが、少し調べたところ、余市岳西側の尾根上にある、三角点が置かれたピークらしいことがわかりました。三角点の設置記録である「点の記」によると、三角点が設置されたのは大正2年、赤井川村轟から余市川の源流域を遡り、草木や蔓が生い茂る急峻な斜面を山中で野営しながら目指すような場所だったようです。今ではほとんど耳にすることのない地名ですが、轟が鉱山街として賑わった時代、珍しい植物が採取できる場所としても知られていたのかもしれません。
美しく大きな花を咲かせるアツモリソウは、乱獲がたたり、現在は絶滅寸前の状況にあります。道内で確実に自生する場所はすでに片手で数えられるほどしかありません。この写真はアツモリソウのかつての分布域を示す貴重な記録といえます。
